歌声と語音と音楽
  非凡な歌声と平凡な歌声
  訓練に潜む危険
喉頭と声帯のしくみ
  声帯の協力筋
  喉頭懸垂筋
  練習上の注意点
発声器官のリハビリ 
虚脱したファルセット
声を当てる練習について
支えのあるファルセット
音高のコントロール
頭声によるリハビリ
胸声のトレーニング
  胸声の上限
歌う呼吸について
  声種について
練習のまとめ
A 虚脱したファルセット練習
B 支えのあるファルセット練習
C 声の融合練習
頭声によるリハビリ
支えのあるファルセットに関連した発声に頭声と呼ばれるものがあります。
頭声とは声楽においていわれる声区のひとつです。
歌手の声域には音域に応じて何種類かの特徴ある音質が生じるのですが、声楽において、それらを低音域から胸声・中声・頭声・ファルセットなどと合理的に分割する考えが声区です。
実際の人間の歌声はこのように合理的なものではありません。
頭声はファルセットの一種ですが、ファルセットよりは丸く暗い声になります。
頭声の音域は、ファルセット同様、吟詠ではほとんど使われない音域ですが、発声器官のリハビリの為にはどうしても必要な音域です。
頭声は支えのあるファルセットよりは声門中央に隙間が残ります。
頭声を練習することによって喉頭の後部を引き上げる筋(2及び3)の機能を回復・強化させることができます。
その際、対抗する引き下げ筋(4)の参加が必要であり、両筋の引き合いによって、声帯は長く引っ張られます。
(4)胸骨甲状筋は支えのあるファルセットでリハビリした筋です。
 
 頭声の練習によるリハビリ
声を頭頂部や軟口蓋に当てる





基本的には支えのあるファルセットと同じですが、協力する筋肉群の組み合わせが変わります。
声を軟口蓋あるは頭頂部に当てます。
すると口蓋喉頭筋・茎状咽頭筋(喉頭後部を引き上げる筋)が緊張し、喉頭後部を高く持ち上げます。
喉の天井が高く広がり(声帯の上空間が大きく広がる)、鼻腔は開きます。
後部を引き上げる力に対抗して胸骨甲状筋が自然に働き、喉頭前部を引き下げるはずです。
声帯は長く引き伸ばされますが、声門は全体的に少し離れた状態になります。

支えのあるファルセットと比べると、丸みを帯びた声になり、声の輪郭は少しぼやけます
頭声の練習には、しばしば「ウ音」が用いられます。
「ウ」といっても、日本語の「ウ」とは少々異なります。
つまり言語の母音ではないという意味です。「ウ」と「オ」の間のような曖昧な音色です。

頭声が上手くできると、呼気はほとんど使わずに発声できます
むしろ空気が声門の中に吸い込まれて行くような感覚になるはずです。
     

頭声の喉頭筋の牽引
支えのあるファルセットとの違いは、甲状舌骨筋は使わず、口蓋喉頭筋・茎状咽頭筋(後方上へ引き上げる筋)を働かせている点です。
支えのあるファルセットより声帯は長く伸ばされますが、声帯閉鎖に協力する甲状舌骨筋が休んでいるので、声帯はが並行して少し離れる状態になるので、音色はやや暗く、丸みを帯びます
低音域では息漏れ声になります
弱頭声の練習によるリハビリ
声を前頭部に当てる





弱頭声とは、一般的にファルセットと呼ばれる音質の声です。
声を前頭部に当てます。(母音「イ」が用いられることが多い)
引き下げ筋は、胸骨-甲状筋が解放され、輪状甲状筋だけになります。
喉頭は、支えのあるファルセットより若干引き上げられます。

声門は頭声よりは閉じられますが、中央に開きが残ります。
声は支えのあるファルセットよりは細く、強声では平たい声になります。
   

弱頭声の喉頭筋の牽引
 
 充実した頭声の練習によるリハビリ
声を首の後下部に当てる





声を首の後下部(うなじ)に当てると、輪状-咽頭筋によって、喉頭後部が背筋側にしっかり繋ぎ止められます。
声帯は最大級に伸ばされ、声門は少し開きます。
もちろん、この筋は、喉頭引き上げ筋・引き下げ筋の働きがなければ適正に動きません。

よくとおる、充実した高音が得られます。
うなじに当てるのは、感覚がつかみ難いですが、声をうなじに向かって引くように出す感じでしょうか。
喉は天井だけではなく、奥も後方に広がります。
優れた声楽歌手の高音において、この輪状-咽頭筋が強く働いているといわれます。


ただ、この当て方ばかりしていると、声唇の筋肉がたるんで、胸声に支障を来すことになります。